アトピーが治る前兆は?

—数字・皮膚・体幹の変化で見る

アトピー性皮膚炎に悩む方々にとって、長期にわたる治療の中で、トンネルの出口が見えずに苦しむことがあるかもしれません。

しかし、実際にはアトピーが改善に向かっていることを示す「前兆」が存在します。

今回は、アトピー治療の進展を見極めるための具体的な指標や肌の変化について詳しく解説します。

数値で見るアトピーの回復傾向

アトピー性皮膚炎は、皮膚の炎症や湿疹を繰り返す慢性疾患であり、多くの方が長期間にわたって治療を続けています。治療が効果を発揮しているかどうかを判断するために、数値的な指標を用いることがあります。その代表的なものがTARC値血清IgE値です。

1. TARC値の重要性
TARC値(Thymus and Activation-Regulated Chemokine)は、炎症の度合いを示す血中のケモカインの量を測定するもので、アトピーの状態を客観的に評価するための指標です。

成人の場合、TARC値が高いほどアトピーの活動性が高いと判断されますが、治療が進むとこの値は徐々に下がり、基準値に近づいていきます。特に、TARC値が500以下にまで低下すると、見た目にはほとんどアトピーの症状が見られなくなることが多いです。

ただし、治療により皮膚や見た目が改善されてもTARC値が依然として高い場合は、体内で炎症が続いている可能性があるため、治療を続けることが推奨されます。

TARC値は定期的に測定することができ、治療の効果を数値で確認できるため、治療の進捗を把握するために非常に有効です。

2. IgE値の役割
IgE値(免疫グロブリンE)は、アレルギー反応を示す抗体の量を測定するもので、かつてはアトピーやアレルギー疾患の主な指標として使用されていました。

しかし、最近の研究ではIgE値が必ずしもアレルギーと直結しないことが分かってきました。それでも、IgE値は長期的な炎症の状態を示す指標として有用です。

炎症が抑えられるとIgE値も徐々に低下し、正常範囲に近づいていきます。

IgE値の検査は保険適用外の場合もあるため、検査費用がかかることがありますが、TARC値と併用して炎症の状態を把握することで、より正確に治療の進展を評価することができます。

肌で感じるアトピーの回復の兆し

数値的な変化に加え、肌そのものの変化もアトピーの回復を示す重要な兆候です。ここでは、肌のバリア機能や常在菌の変化からアトピーの改善を見極める方法について詳しく見ていきます。

1. 角層のセラミドとアトピー再発の関係
肌の角層には、バリア機能を担う重要な成分であるセラミドが含まれています。大分大学の研究によると、アトピーの炎症をステロイドで抑えた後、保湿剤だけで症状をコントロールできる人と、再発してしまう人では、セラミドの鎖長に違いがあることが分かっています。再発しやすい人は、セラミド鎖が短く、質が低下していることが特徴です。

* Sho Y, and Sakai T, et. al.,
Journal of Investigative Dermatology 142(12), 3184-3191.e7, 2022

セラミドの質が向上すると、肌のバリア機能が強化され、外的刺激に対する耐性が高まります。

そのため、セラミドを補うスキンケアが非常に重要です。

セラミド配合の保湿剤を使用することで、その保湿効果で肌のバリアをサポートし、再発を防ぐことが期待できます。

2. 黄色ブドウ球菌とNMFの関係
この皮膚常在菌は、アトピーの炎症を悪化させる要因として知られており、アトピー肌では健常肌と比べてその比率がもともと高いことが知られていますが、今回アトピー肌では、炎症が起こる前に黄色ブドウ球菌が増加することが分かりました。

最近の研究では、肌の天然保湿因子(NMF)が少ない状態だと、黄色ブドウ球菌が定着しやすいことが報告されています。NMFは、肌の水分保持やpHの維持に重要な役割を果たしており、NMFが豊富な肌は、黄色ブドウ球菌の増殖を抑えることができます。アトピー肌の方は、NMFを補うためにアミノ酸系の保湿成分を含むスキンケアを意識的に行うことが重要です。

体感で感じるアトピーの改善

数値や肌の変化を確認するだけでなく、実際に感じる体感的な変化も、アトピーの回復を示すサインです。治療が進むと、炎症が起こってもその範囲が狭まり、回復が早くなることが一般的です。以前は1週間以上かかっていた炎症の治まりが、数日で良くなることがあります。また、再発までの期間も徐々に長くなり、肌が安定することで、薬の使用頻度を減らすことができるでしょう。

ただし、アトピーは皮膚バリアの低下を体質的に持つ方が多く、症状が安定した後も継続的なスキンケアは必要です。

保湿やスキンケアを継続することで、再発を防ぎ、長期間にわたって安定した肌の状態を保つことが可能になります。

最後に

アトピー治療は、数値や肌の変化を見逃さずに、適切なケアを続けることでトンネルの出口が見えてきます。治療が長期にわたる場合でも、焦らずに継続することが大切です。

定期的な診療とスキンケアの見直しを通じて、自分の肌の状態をしっかりと把握し、適切な対処をすることで、アトピーが改善していくことを実感できるでしょう。焦らず一歩ずつ進めば、やがてその先に健康な肌が待っているはずです。